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『できる社員は「やり過ごす」』高橋伸夫

【概要】
経営学者が日本の会社組織を語ったもの。
原著は96年刊行で、02年に文庫化されています。

「尻ぬぐい」「泥かぶり」の多忙感に沈む係長ポストの存在意義に鋭く迫っています。

まえがきより
日本の大企業は、大偉業になったから、この本に書いてあるような現象が観察されるようになったのではなく、この本に書いてあるような現象が発生するようなシステムをもっていたからこそ、大企業に成長してこられたのである。



Manager for a Day / Federation of Transport Trade Unions in Bulgaria



◆1、デキる人の「やり過ごし」

とにかくこのようなオーバーロード状況では、上司の指示命令のすべてに応えることは不可能である。それでは部下はどうしているのか。

ここで登場するのが「やり過ごし」である。部下は上司の指示・命令を上手にやり過ごすことで、時間と労力を節約し、日常の業務をこなしている。つまり、やり過ごすことによって、少なくともルーチンの必要な業務は滞ることなくすすめられるわけだ。それができない部下は「いわれたことをやるだけで、自分の仕事を管理する能力がない」「上からの指示に優先順位を付けられない」というマイナス評価をされることになる。

B社では、つぎのような評価基準を明かしてくれた。

・A評価…やり過ごしもふくめて上司の指示・命令をみずからの判断で優先順位をつけて遂行し、必要に応じて指示されないことまで自主的におこなって、常に時機に応じた解決策を提示する部下。

・B評価…上司からいわれた順番に仕事に着手し、上司が指示した範囲で確実に仕事を遂行するが、上司の指示が多すぎたような場合には、時機をのがすこともある部下。

・C評価…やり過ごしもふくめてまちがった優先順位で勝手におこない、その結果やらなくてもいいことを先にやり、やるべきことをあとまわしにして時機をのがす部下。

・D評価…自分で優先順位をつける能力もなく、かといって、上司から指示されたことも遂行できない部下。

ようするに、部下のやりすごしをわざと誘発させているのである。そんなとき部下は、自分で仕事に優先順位をつけ、優先順位の低い仕事をやり過ごしながら、自分で仕事を管理することを期待されている。やり過ごしの発生する状況をわざとあたえ、部下に実際にやり過ごしをさせることで、個々の仕事に対する優先順位の付け方や、やり過ごしの判断の仕方をチェックして部下の力量を推し量っているのだ。いずれ管理者になれば、自分の責任で仕事に優先順位をつけ、自分の責任でやり過ごさなければならない。



◆2、係長という仕事

実際のところ、「係長の仕事」は、その量だけを考えても、ほとんど体力まかせの感がある。その質をとっても、まさに尻ぬぐい、泥かぶりのたぐいの仕事である。当の係長自身が、そのうち異動があるからという「見通し」にすがって、その日その日をしのいでいるような節がある。

管理職候補の大卒ホワイトカラーは、人数が増えようとも、とにかくOJTで育てて(ほかに方法がない)、賃金分は働いてもらえるようにしなければならない。しかし、全員が管理職になれるほどポストはないし、その能力もないだろうから、管理職になる段階で選別しなくてはならない。そう、係長クラスこそが、この選別をうける職位にあたるというわけだ。これが、係長クラスが尻拭い的仕事に忙殺される構造的な要因なのである。


◆3、会社という組織

勤続20年近い人が話し合っているのを横で聞いていても、20年もその会社にいて「この人のためなら…」という直属上司にひとりでもめぐりあっている人は、幸せというほかない。逆に言うと、そんなしあわせな人でさえ、残りの数人もしくは10人近い直属上司には、そんな感情を抱かなかったということである。

実際には、未来傾斜性の低い人が、見通しの非常に高い組織に所属してしまって、苦しんでいるケースもあるだろう。「『泥をかぶる』係長」のところでとりあげたような、直接作業員から管理業務に回されて、耐えられずに辞めていく人のケースなどは、おそらくそうした一例だと思われる。

このようになんの根拠もない、おそらく非合理的で無茶な戦略でも、しかるべき人がしかるべきときに宣言すれば、そしてある程度の長期にわたって変更撤回されなければ、戦略は人々の迷いを取り払い、元気付け、積極的に方向づける。まさに「見通し」が立つのだ。

 そのとき、戦略が最適であるかどうかはあまり重要な問題ではないし、多くの場合、戦略の最適性と勝敗は別の問題なのである。戦略は持っていること自体に、経営的観点からはある種の意義が存在する。…つまり、戦略を持っているということは、行き当たりばったりではないということなのである。戦略が優先順位のシステムとして機能するおかげで、メンバーの「見通し」も立ち、組織内行動の混乱を排除できる。




【感想】

◆前半では、いい古された「勤勉なバカほどハタ迷惑なものはない」「無能な働き者は殺してしまえ」のことわざのとおり、組織メカニズムに即したデキる人物像が示されています。

「B社の評価基準」が実に的確。

一般に言われる「自主性」「指示まち」などのモヤモヤした用語の中身が、具体的な行動として整理されています。


◆また、完璧主義者・マジメな奴ほどメンタル疾患になりやすい、根性論で仕事をこなして来た人がマネジャーになった途端に部下を使い潰すようになる、といった経験則の裏付けにもなりそうです。

未来傾斜性の低いタイプの人は、管理業務にアップアップで…というもの。本人も回りも不幸になっている風景が想い起こされます。

◆後半の会社論・組織論部分での「戦略は存在することに意味がある」というのは意外感がありながらも納得できる指摘です。

本書では会社の例に即して、戦略が組織の優先順位ルールとなり混乱を回避させる、と説明されていますが、自己啓発系ビジネス書で指摘されるところの「目標を書き出せ」理論もこれと同じ構造かと。

迷うプロセスを最小化できるという点が大きなメリットになるようです。

会社勤めに疲れた人、割り切れないモヤモヤを抱えている方にオススメです。




キンドル版もあります。



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『なぜ、それを好きになるのか? 脳をその気にさせる錯覚の心理学』竹内龍人

【概要】
京大出身で日本女子大の心理学教授を務める著者による心理学・脳科学ガイド。

最新の研究成果を援用して「なんとなく好きになる」仕組みに迫ります。


まえがきから
本書では、実験心理学という学問の導きを得て、この「少し愛する」「なんとなく好きになる」秘密に迫ります。しかし、それはやさしい作業ではありません。なぜなら、好きになることは、そのほとんどが私たちの意識が及ばばい領域、つまり無意識のプロセス起こってしまうからです。



Osprey - Shrimp Party at Waterfront Home / roger4336



【ポイント】

◆1、脳の処理の仕組み
人間は、自分の脳が処理しやすいものを好む。

繰り返し見ていれば、それだけでなんとなく好きになる。

私たちは平均顔のみならず、平均時計や平均イヌ、平均トリにまで魅力を感じるようなのです。…私たちは「平均○○」をもれなく好むと考えるほうが妥当です。平均的なものは脳が処理しやすいから―という「処理の流暢性誤帰属」仮説がここで成り立つのです。



◆2、作り笑顔も本物に

ですから、目に注目しているとニセの笑顔は見破ることができます。しかし、特に口を大きく開けて笑う人、つまり大きな笑顔を見せる人の顔を見ると、どうしても、そのよく動いている口のほうに注意がいってしまいます。そうなると、作り笑顔を見極めることは困難です。

著者が米国の大学院入学のためのコミュ力テスト突破のために編み出した方法
1、作り笑顔を見破るのは困難なので、ふつうの笑顔だと捉えられた。
2、作り笑顔をしていると、自分の気分がポジティブになり、それは本物の笑顔になる。
3、自分の笑顔とポジティブマインドは相手に伝染し、相手は自分を好ましく思うようになる。



◆3、心理学的に正しい夫婦問題へのアプローチ

夫婦が抱えている7割近くの問題は解決が不可能であり、それはコミュニケーションを増やしても改善へは向かわない、というのがゴッドマンの分析です。解決が不可能な場合は妥協しなければなりません。妥協する場合は、友情に基づいて、相手のことを考えつつ落としどころを探って行くしかない、というのです。

なんとなく好きにさせるポイント
1.「欲しい」と「好き」とは脳内では別のこと。
2.「欲しい」から「好き」へ移行させれば関係が長続きする。
3.夫婦関係改善には、コミュニケーションを増やしてもダメ。友情に基づく「なんとなく好き」と思う気持ちが重要。



【感想】
新書ということもあり、ややこしいことは省いて理路整然と語られています。

3でとりあげた夫婦問題とコミュニケーションの話なんかは実用性も高そう。ただただ「コミュニケーションを増やせ」なんてのは結局のところ根性論で消耗するばかりなのだと思います。

最近の研究成果ということでは、「人間は、自分の脳が処理しやすいものを好む」という点が推されています。この原則があるから「単純接触効果」も成り立つし、勉強の習慣化、平均顔への好みも説明されるとのことです。

強引な感じもしますが、普段の生活で使う分には充分な内容です。



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